Infrastructure as Code市場の導入加速と成長ポテンシャル
インフラストラクチャ・アズ・コード(IaC)市場の現状と将来展望
インフラストラクチャ・アズ・コード(Infrastructure as Code、以下IaC)市場は、ITインフラの管理・運用をコード化することで自動化・効率化を図る技術として、近年急速に注目を集めています。
インフラストラクチャ・アズ・コード市場(Fortune Business Insights調べ)によると、世界のIaC市場規模は2022年に7億5,910万米ドル(約1,050億円)に達し、2023年には9億870万米ドル(約1,260億円)まで拡大しました。2030年までに3,304.9百万米ドル(約4,570億円)へ成長すると予測されており、2023年から2030年までの予測期間中、年平均成長率(CAGR)は20.3%と非常に高い水準を維持すると見込まれています。
市場の成長を支える主な要因
IaCの普及を後押ししている主な要因は以下の通りです。
- クラウドネイティブ化の加速
企業がパブリッククラウド(AWS、Azure、Google Cloudなど)への移行を進める中で、インフラのプロビジョニングと管理をコードで一元的に行うIaCの必要性が高まっています。 - DevOps・CI/CDの浸透
開発と運用を一体化させるDevOps文化の広がりに伴い、インフラもコードとしてバージョン管理し、自動デプロイする流れが標準化しています。 - セキュリティとコンプライアンスの強化
コード化することでインフラ構成の変更履歴が残り、監査やセキュリティチェックが容易になるため、金融機関や政府機関など規制の厳しい業界での採用が進んでいます。 - マルチクラウド・ハイブリッド環境への対応
複数のクラウドを組み合わせる企業が増加しており、IaCツールは異なる環境を統一的に管理できる点で大きな強みを発揮しています。
市場規模の推移(2022~2030年)
以下は、Fortune Business Insightsの予測に基づく市場規模の推移表です。
|
年次 |
市場規模(百万米ドル) |
前年比成長率(%) |
CAGR(2023-2030) |
|
2022年 |
759.1 |
- |
- |
|
2023年 |
908.7 |
+19.7% |
- |
|
2024年 |
1,093.0 |
+20.3% |
- |
|
2025年 |
1,315.0 |
+20.3% |
- |
|
2026年 |
1,582.0 |
+20.3% |
- |
|
2027年 |
1,903.0 |
+20.3% |
- |
|
2028年 |
2,289.0 |
+20.3% |
- |
|
2029年 |
2,754.0 |
+20.3% |
- |
|
2030年 |
3,304.9 |
+20.0% |
20.3% |
※2024年以降はCAGR20.3%を単純適用した推定値
この表からも、2023年以降はほぼ一定のペースで20%を超える成長が続くことがわかります。
地域別市場シェア(2022年)
2022年の地域別シェアでは、北米が圧倒的な首位を占めています。
|
地域 |
シェア(2022年) |
主な要因 |
|
北米 |
39.96% |
クラウド先進国・大手テック企業の本拠地 |
|
欧州 |
約25% |
GDPR対応・規制強化による需要増 |
|
アジア太平洋 |
約20% |
中国・インド・日本でのデジタル化加速 |
|
その他 |
約15% |
中南米・中東・アフリカでの成長期待 |
北米はAWS、Microsoft、GoogleといったクラウドプロバイダーやHashiCorp、PulumiなどのIaCツールベンダーが集中しており、市場の成熟度が最も高い地域です。一方、アジア太平洋地域は今後最も高い成長率が見込まれるエリアであり、特に日本では政府のデジタル庁推進や企業のDX投資が追い風となっています。
導入形態別分析
IaCの導入形態は大きく2つに分けられます。
|
導入形態 |
特徴 |
市場シェア(2022年推定) |
|
クラウドベース |
SaaS型で運用が簡単、迅速に導入可能。スケーラビリティが高い |
約65% |
|
オンプレミス |
自社環境で完全にコントロールしたい大企業・金融機関で採用が多い |
約35% |
クラウドベースのシェアが大きいものの、セキュリティ要件の厳しい業界ではオンプレミス型が根強く残っています。
インフラストラクチャタイプ別
|
タイプ |
説明 |
採用傾向 |
|
可変インフラストラクチャ(Mutable) |
既存のサーバーを更新・変更していく方式 |
従来型環境に多い |
|
不変インフラストラクチャ(Immutable) |
変更時は新しいインスタンスを作成し、古いものを破棄する方式 |
コンテナ・Kubernetes環境で主流 |
近年は不変インフラストラクチャの採用が急増しており、特にコンテナオーケストレーションとの親和性が高い点が評価されています。
アプローチ別
|
アプローチ |
代表ツール例 |
特徴 |
|
命令型(Imperative) |
Ansible、Chef、Puppet |
手順を順番に記述。従来型の運用に近い |
|
宣言型(Declarative) |
Terraform、Pulumi、AWS CDK |
望む最終状態を記述。差分管理が容易 |
現在は宣言型アプローチが主流となっており、Terraformのシェアが特に高い状況です。
エンドユーザー産業別
|
産業 |
シェア(2022年推定) |
主な活用シーン |
|
BFSI(銀行・金融・保険) |
約22% |
コンプライアンス対応・セキュリティ強化 |
|
IT・通信 |
約20% |
クラウド移行・DevOps推進 |
|
製造業 |
約15% |
工場IoT・スマートファクトリー |
|
政府・公共 |
約12% |
デジタル庁推進・電子政府プロジェクト |
|
小売 |
約10% |
eコマース基盤の迅速な拡張 |
|
ヘルスケア |
約8% |
電子カルテ・遠隔医療システム |
|
その他 |
約13% |
教育・メディア・エネルギーなど |
特にBFSIとIT・通信分野が市場を牽引しており、両分野でIaCの導入が急速に進んでいます。
今後の展望と課題
2030年にかけてIaC市場は3,300百万米ドル規模に達すると予測されていますが、以下のような課題も残っています。
- スキルギャップ:IaCを効果的に扱えるエンジニアの不足
- ツールの乱立:Terraform、Pulumi、Crossplane、AWS CDKなど選択肢が多く、企業内での統一が難しい
- セキュリティリスク:コードに脆弱性が混入する「IaCセキュリティ」の重要性が増している
これらの課題を克服するため、HashiCorp(Terraform)、Pulumi、Red Hat(Ansible)、Microsoft(Azure Bicep)などのベンダーは、AIを活用した自動コード生成やセキュリティスキャン機能を強化しています。
まとめ
インフラストラクチャ・アズ・コードは、クラウド時代におけるITインフラ管理の新しい標準として確固たる地位を築きつつあります。2022年から2030年にかけて年平均20.3%という高い成長率を維持する見通しであり、特に北米を筆頭にグローバルで急速に拡大していくでしょう。日本企業においても、DX推進やクラウド移行の流れの中でIaCの導入はもはや選択肢ではなく必須の取り組みとなりつつあります。適切なツール選定と組織内スキル向上を図りながら、IaCを戦略的に活用していくことが、今後の競争力に直結すると言えるでしょう。

