自動車排気システム市場の軽量化技術と成長性
自動車用排気システム市場の現状と将来展望:2032年までの成長予測と業界分析
自動車産業は今、100年に一度の大変革期を迎えています。電動化の波が押し寄せる一方で、内燃機関(ICE)を搭載した車両の環境性能向上も喫緊の課題となっています。この環境対策の中核を担うのが排気システムです。世界の Automotive Exhaust System Market(自動車用排気システム市場)は、排出ガス規制の強化、燃費向上への要求、そして新興国における自動車保有台数の増加を背景に、堅実な成長と技術革新を続けています。本記事では、2019年から2032年までの市場予測、セグメント別分析、そして地域別の動向について詳しく解説します。
市場規模と成長予測:緩やかだが確実な推移
Fortune Business Insightsのデータによると、2018年における世界の自動車用排気システム市場規模は113億5000万米ドル(約1兆数千億円)と評価されました。この市場は、2032年までに147億米ドルに達すると予測されています。この期間中の年平均成長率(CAGR)は2.0%と見込まれています。
一見すると、この2.0%という成長率は控えめに見えるかもしれません。しかし、これには明確な理由があります。世界的な電気自動車(EV)へのシフトが加速しており、排気システムを必要としない完全な電気自動車(BEV)のシェアが拡大しているためです。それにもかかわらず市場が拡大を続ける背景には、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の需要増加があります。これらの車両は依然として内燃機関を使用しており、かつ高度な排気浄化システムを必要とするため、市場の下支え要因となっています。
市場を牽引する主な要因
- 厳格化する環境規制
欧州の「Euro 7(ユーロ7)」、米国のEPA基準、中国の「国6(China VI)」、インドの「BS-VI」など、世界各国で排出ガス規制が極めて厳しくなっています。これらの規制は、NOx(窒素酸化物)、PM(粒子状物質)、CO(一酸化炭素)の排出量を大幅に削減することを求めています。これに対応するため、自動車メーカーは、より高性能な触媒コンバーター、DPF(ディーゼル微粒子除去装置)、GPF(ガソリン微粒子フィルター)、SCR(選択的触媒還元)システムなどを搭載する必要があり、排気システム単価の上昇と市場の拡大を招いています。
- 車両の軽量化と燃費向上
燃費規制への対応として、排気システム自体の軽量化も進んでいます。従来のスチール製から、軽量かつ耐熱性の高いステンレス鋼やチタン合金、さらには複合材料の使用が増加しています。軽量化は車両全体の燃費向上に直結するため、付加価値の高い排気システムへの需要が高まっています。
セグメント別市場分析
市場は、車種、燃料タイプ、コンポーネントタイプによって細分化されています。
車種別(Vehicle Type)分析
- 乗用車 (Passenger Cars): 市場シェアの過半数を占める最大のセグメントです。世界的な自動車生産台数の多さと、個人消費者の環境意識の高まりが寄与しています。特にSUVやクロスオーバーの人気により、これらの車両向けの高性能な排気システムの需要が安定しています。
- 小型商用車 (LCV): 物流ラストワンマイルの需要増加に伴い、都市内配送で使用されるバンの需要が増えています。都市部での排出ガス規制は特に厳しいため、LCV向けの排気後処理装置への投資が進んでいます。
- 大型商用車 (HCV): トラックやバスなどの大型車は、ディーゼルエンジンが主流であり、大量の排気ガスを処理する必要があります。SCRシステムなどの高価な後処理装置が必須となるため、市場価値の観点で重要なセグメントです。
燃料タイプ別(Fuel Type)分析
- ガソリン (Gasoline): 乗用車市場において依然として支配的ですが、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)の導入など、ディーゼル並みの浄化装置が必要になりつつあります。
- ディーゼル (Diesel): 欧州を中心に「ディーゼル離れ」が進んでいますが、商用車分野では依然として主役です。ディーゼル車向けの排気システムは構造が複雑で高価であるため、収益性は高い傾向にあります。
- 代替燃料 (Alternative Fuels - LPG, CNG, Others): 天然ガス車やLPG車向けの排気システムも、特定の地域や商用利用において一定の需要があります。これらはスス(PM)の排出は少ないものの、NOx対策など独自のシステムが必要です。
コンポーネント別(Component Type)分析
排気システムは単なる「パイプ」ではなく、高度なエンジニアリングの集合体です。
- マニホールド (Manifold): エンジンシリンダーから排気ガスを集める最初の部品。耐熱性と排気干渉を防ぐ設計が求められます。
- コネクター (Connector): 各部品をつなぐジョイント部分。
- エキゾーストパイプ (Exhaust Pipe): ガスの通り道。
- マフラー (Muffler): 消音機。近年では、アクティブサウンドコントロールなど、音質を電子制御する技術も組み込まれています。
- 浄化装置(触媒・フィルター): このセグメントには含まれない場合もありますが、排気システム全体として見た場合、最もコストがかかり、技術革新が進んでいる部分です。
地域別分析:欧州の支配とアジアの台頭
欧州 (Europe)
2018年時点で、欧州は市場シェアの**42.47%**を占め、圧倒的な支配力を示しました。この背景には、世界で最も厳しい排出ガス規制(Euro規制)の存在と、ドイツを中心としたプレミアムカーメーカーの集積があります。アウディ、BMW、メルセデス・ベンツなどのメーカーは、高性能かつ環境負荷の低い排気システムをいち早く採用しており、地域の市場規模を押し上げています。また、ディーゼル車の比率が(減少傾向にあるとはいえ)他地域に比べて高いことも、高価な排気システムの需要を支えています。
アジア太平洋 (Asia Pacific)
中国、インド、日本、韓国を含むアジア太平洋地域は、最も高い成長率が見込まれる市場です。
- 中国: 世界最大の自動車市場であり、「国6」規制の導入により、高度な排気システムの需要が急増しています。
- インド: 急速な経済成長とともに自動車普及が進み、「BS-VI」規制への移行が市場を一変させました。 これらの国々では、車両生産台数の絶対数が多いため、わずかな規制強化が市場規模に巨大なインパクトを与えます。
北米 (North America)
米国とカナダを中心とする北米市場では、大型ピックアップトラックやSUVの人気が根強いことが特徴です。これらの大排気量車には、耐久性が高く、処理能力の大きい排気システムが必要です。また、EPA(米国環境保護庁)の規制も厳しく、技術的な要求水準は高いまま維持されています。
技術トレンドと今後の課題
排熱回収システム (WHRS)
排気ガスとして捨てられていた熱エネルギーを回収し、エンジンの暖機促進や発電に利用する「排熱回収システム」の技術開発が進んでいます。これにより、コールドスタート時の排出ガス低減と燃費向上が同時に達成可能となります。
音響エンジニアリング
スポーツカーやプレミアムカーにおいて、「排気音」はブランドのアイデンティティの一部です。しかし、規制により音量は制限されています。そこで、バルブ開閉によって音質を変える可変バルブシステムや、スピーカーを使って車内に好ましいエンジン音を流すアクティブサウンドデザインが進化しています。
EVシフトによる市場への影響
最大の課題はやはり電動化です。バッテリーEV(BEV)が普及すれば、排気システムの需要は消滅します。2032年に向けて、BEVのシェアは確実に増加します。 しかし、市場が即座に縮小しない理由として、「ハイブリッド車(HEV/PHEV)」が現実解として長期間併存することが挙げられます。ハイブリッド車は、エンジン稼働と停止を頻繁に繰り返すため、触媒の温度管理が難しく、実はガソリン車以上に高度な排気熱マネジメントシステムが必要とされます。このため、排気システムメーカーにとって、ハイブリッド車は依然として重要なビジネスチャンスであり続けます。
結論
世界の自動車用排気システム市場は、電動化という逆風の中にありながらも、2032年に向けて147億ドル規模へと成長を続ける見込みです。単純な「パイプと消音機」の産業から、高度な化学反応を制御し、熱エネルギーを管理し、サウンドをデザインする「ハイテク産業」へと変貌を遂げています。
欧州市場の技術的リーダーシップと、アジア市場の圧倒的なボリュームが今後も市場の両輪となるでしょう。サプライヤーにとっては、ICE(内燃機関)の効率化を極める技術と、来るべきEV時代を見据えた事業ポートフォリオの転換(例えば、バッテリーケースや熱管理システムへの技術転用など)という、難しい舵取りが求められる10年となります。
しかし、少なくとも今後10年間においては、クリーンな空気を守り、自動車社会を持続可能なものにするために、高性能な排気システムの重要性が揺らぐことはありません。
https://www.fortunebusinessinsights.com/automotive-exhaust-system-market-102535

