自動車用複合材料市場のEV化進展と市場拡大
自動車産業では「軽量化」と「高い安全性・剛性」を同時に実現する材料として、複合材料(コンポジット)の採用が加速しています。本稿では、公開情報として Automotive Composites Market を参照しつつ、自動車用コンポジット市場の規模感、成長背景、材料別・用途別の特徴、地域別の見立て、そして2024〜2032年に向けた注目ポイントを日本語で整理します。
自動車用コンポジットとは何か:なぜ今、重要なのか
自動車用コンポジットは、ガラス繊維・炭素繊維・天然繊維などの「繊維」と、熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂などの「樹脂」を組み合わせ、金属では得にくい特性を狙って設計される材料群です。代表的な狙いは次の通りです。
- 軽量化による燃費・電費の改善(走行時のエネルギー消費低減)
- 部品統合による設計自由度の向上(形状最適化、部品点数削減)
- 耐腐食性(特に外装・下回りでのメリット)
- 衝突安全への寄与(エネルギー吸収設計、局所補強など)
とりわけ近年は、エンジン車だけでなくEV(電動車)でも「軽量化=航続距離や効率に直結」するため、コンポジットの価値が再評価されています。さらに、車体設計がプラットフォーム化・モジュール化する流れの中で、材料選定は「性能」だけでなく「製造プロセス」「サイクルタイム」「リサイクル性」「調達安定性」まで含めた総合最適の対象になっています。
市場規模の概観:成長トレンドの読み方
参照情報によれば、世界の自動車用コンポジット市場規模は2018年に76.7億米ドルで、2026年に135億米ドルへ拡大が見込まれ、**年平均成長率(CAGR)7.56%**で推移するとされています。また、北米が2018年に31.29%のシェアで市場をリードし、米国市場は2026年に32.2億米ドルに達する見通しとして示されています。背景としては、軽量化トレンドと燃費改善ニーズが明確に挙げられています。
この数字が示唆するのは、コンポジットが「一部の高級車・スポーツ用途の特殊材料」から、「量産の現場で採用を増やす実用材料」へと役割を広げている点です。ただし、量産化にはコスト、成形時間、品質ばらつき管理、修理性などの課題も伴います。市場は単純に右肩上がりというより、用途(外装・内装・構造)と材料(ガラス/炭素/天然、熱硬化/熱可塑)で成長の速度と収益性が異なる形で進むと考えるのが現実的です。
成長を押し上げる要因:軽量化だけではない
自動車用コンポジットの採用を後押しする要因は複層的です。
1) 規制・要求性能の高度化
燃費や排出に関する要求が厳しくなるほど、車両軽量化の価値が上がります。軽量化は、パワートレイン改良のようにシステム全体を大きく変えずとも、部品単位で積み上げやすい戦略です。
2) EV化による設計要件の変化
EVではバッテリー搭載により車重が増えやすく、軽量化の優先度が高まります。また、床下・バッテリー周辺の保護、熱マネジメント、衝突時のエネルギー吸収設計などで、材料選択の自由度が再編されます。
3) 部品一体化と意匠性
コンポジットは成形自由度が高く、複雑形状や意匠面の作り込みに強みがあります。外装パネルや内装部品で「軽量化+意匠+機能統合」を同時に狙える点が採用を促します。
一方での課題:コスト、量産性、循環性
市場の伸びを考えるうえで、課題も同じくらい重要です。
- 材料コスト:特に炭素繊維系は高価になりやすい
- サイクルタイム:量産では秒〜分単位の成形速度が求められる
- 品質管理:繊維配向、含浸、ボイドなど、性能に直結する変動要因が多い
- 修理・リサイクル:熱硬化性は再溶融できず、循環設計が難しいケースがある
そのため、各社は「どの部位に、どの材料系を、どの工法で」入れると総コストが最適化されるかを突き詰める方向に進みます。ここが、セグメント別分析(繊維・樹脂・用途)が重要になる理由です。
繊維別(Glass / Carbon / Natural):主戦場が異なる
参照情報での繊維区分は ガラス、炭素、天然 の3つです。それぞれの立ち位置を整理します。
ガラス繊維(Glass Fiber)
- コストと性能のバランスが良く、量産で使いやすい
- 外装・内装の幅広い部品で採用が進みやすい
- 一方で、最上位の軽量化・剛性が必要な領域では炭素に劣る場合がある
実務的には「まずはガラス繊維系で採用を広げる」戦略が取りやすく、用途拡大の中心になりやすいカテゴリです。
炭素繊維(Carbon Fiber)
- 高剛性・高強度・軽量が最大の魅力
- 構造部材での性能メリットが大きい一方、コストと量産性がハードル
- ただし、軽量化による効果が大きい車種・グレード・部位では投資回収が成立しやすい
今後の焦点は、炭素繊維そのもののコストだけでなく、プリプレグや成形、接合、検査まで含めた「総工数の削減」です。
天然繊維(Natural Fiber)
- 環境配慮・材料イメージの観点で注目されやすい
- 内装など、要求性能とコストのバランスが合う領域で活躍しやすい
- 一方で、品質安定性や吸湿、長期耐久など、用途に応じた設計配慮が必要
天然繊維は「万能の置き換え」ではなく、適材適所で価値を出すタイプの選択肢です。
樹脂別(Thermoset / Thermoplastics):量産の鍵は熱可塑にも
樹脂タイプは 熱硬化性(Thermoset) と 熱可塑性(Thermoplastics) が軸です。
熱硬化性樹脂(Thermoset)
- 硬化後は形状安定性が高く、従来からの実績がある
- ただし、硬化プロセスが必要で、量産のサイクルタイム短縮が課題になりやすい
- リサイクル設計では工夫が求められることが多い
熱可塑性樹脂(Thermoplastics)
- 加熱で再成形しやすく、プロセス設計次第で量産性に優位を出しやすい
- 接合・溶着など製造面の選択肢が広がる
- 一方で、材料選定や成形条件の最適化が難しく、部位ごとに設計ノウハウが必要
2024〜2032年を見据えると、量産車での適用をさらに広げるには、熱可塑系の使いこなし(工法・品質保証・接合)が競争力になりやすい論点です。
用途別(Exterior / Interior / Structure & Power train / Other)
参照情報の用途区分に沿って、採用理由がどこにあるかをまとめます。
外装(Exterior)
軽量化に加えて、意匠性・耐腐食性・部品統合が効きやすい領域です。塗装、表面品質、寸法安定性、修理性など、ユーザー体験に直結する要件が採用可否を左右します。
内装(Interior)
軽量化だけでなく、触感・見栄え・遮音などの快適性を作り込めます。天然繊維など「環境配慮」を訴求しやすいのも内装の特徴です。
構造・パワートレイン(Structure & Power train)
性能メリットが大きい一方、要求水準が高く、設計検証・品質保証・接合技術が重要になります。ここは炭素繊維の価値が出やすい反面、量産適用の難易度も上がります。
その他(Other)
補強材、ブラケット類、機能部品など、部品単位での置き換えが進みやすい領域です。「まず小さく採用→実績を作り→適用拡大」というステップを踏みやすいカテゴリでもあります。
地域別の見立て:北米優位の背景と、今後の地域展開
参照情報では、北米が2018年に31.29%で最大シェアとされています。北米での優位は、軽量化と燃費改善ニーズが明確であること、量産と材料サプライチェーンが結びつきやすいことなどが背景として考えられます。また、米国市場の拡大見込み(2026年に32.2億米ドル)も示されており、北米は引き続き重要市場になりやすいでしょう。
一方で、2024〜2032年の視点では、地域ごとの「規制」「車種構成」「EV普及速度」「素材・成形の産業基盤」の違いが、用途別の伸び方を変えます。結果として、単に地域全体が伸びるというよりも、外装はここ、内装はここ、構造はここといった形で、得意領域が分かれていく可能性があります。
2024〜2032年の注目ポイント:市場を分ける“実装力”
将来の市場を左右するのは、新素材そのもの以上に「実装力」です。特に重要な論点は次の通りです。
- 量産サイクルの短縮:成形時間の削減と、後工程(仕上げ・検査)の省力化
- 品質の見える化:ばらつき要因が多い材料だからこそ、工程監視や検査設計が差になる
- 接合技術:金属との異材接合、補修性、耐久性評価が普及のボトルネックになりやすい
- 循環設計:回収、再利用、マテリアルリサイクルの道筋をどう作るか
- コストの作り込み:材料単価ではなく、部品統合・工程短縮・歩留まり改善まで含めた総コストで勝負
この観点で見ると、企業にとっての戦略は「最先端材料を採る」だけでなく、採用部位の選定、工法の標準化、サプライヤーとの共同開発、品質保証の仕組み化がセットになります。
まとめ:コンポジット市場は“どこに使うか”で勝負が決まる
自動車用コンポジット市場は、2018年の76.7億米ドルから2026年に135億米ドルへ拡大し、CAGR 7.56%で成長する見通しが示されています。北米が2018年に31.29%のシェアで先行し、米国市場も2026年に32.2億米ドルへ伸びる予測があることから、軽量化と燃費改善が引き続き強いドライバーである点が読み取れます。
ただし、2024〜2032年に向けて重要なのは、材料トレンドの一般論ではなく、**繊維(ガラス/炭素/天然)×樹脂(熱硬化/熱可塑)×用途(外装/内装/構造)**の組み合わせで、最適解が変わるという現実です。量産性、品質、接合、循環性まで含めた「実装の設計」ができる企業ほど、市場拡大の果実を取りやすくなるでしょう。
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