モジュラーチラー市場の省エネ化トレンドと今後の展望
モジュラーチラー市場規模、シェア及び業界分析、タイプ別(空冷式モジュラーチラー、水冷式モジュラーチラー)、用途別(産業用、商業用、住宅用)、および地域別予測、2019-2032年
世界のモジュラーチラー市場は、2018年に38億2,000万米ドルと評価され、2032年までに91億2,000万米ドルに達すると予測されています。予測期間中の年平均成長率(CAGR)は6.0%と見込まれています。アジア太平洋地域は2018年に39.79%の最大シェアを占め、同市場をリードしています。
モジュラーチラーとは何か?
モジュラーチラーは、複数の独立した冷却モジュールを並列に接続して構成する冷凍システムです。従来の大型一体型チラーとは異なり、必要に応じてモジュールを追加・削除できるため、負荷変動に柔軟に対応でき、部分負荷時のエネルギー効率が極めて高いのが最大の特徴です。
例えば、夏季ピーク時には全モジュールを稼働させ、冬季や夜間は必要なモジュールだけを動かすことで、無駄な電力消費を大幅に削減できます。また、1つのモジュールが故障しても他のモジュールが運転を継続するため、システム全体の停止リスクが極めて低く、信頼性が飛躍的に向上します。
この「拡張性」「省エネ性」「高信頼性」の三拍子が揃っている点が、近年特に注目される理由です。
市場成長の主要ドライバー
- データセンター需要の爆発的増加
世界的なデジタル化の進展に伴い、データセンターの新設・増設が急増しています。データセンターは年間を通して安定した冷却が必要であり、かつ将来的なサーバー増設を見据えた拡張性が求められます。モジュラーチラーはまさにこの要件に最適で、特に北米・欧州・アジア太平洋地域の大規模データセンターで採用が加速しています。
- 厳格化する環境規制と脱炭素化圧力
EUのF-Gas規制、中国の「双炭目標(2030年カーボンピークアウト、2060年カーボンニュートラル)」、日本の2050年カーボンニュートラル宣言など、各国で冷媒のGWP(地球温暖化係数)規制が強化されています。
モジュラーチラーは、次世代低GWP冷媒(R32、R1234ze、R513Aなど)への対応が容易で、かつ部分負荷効率が高いため、CO2排出量削減に直結します。特に水冷式モジュラーチラーは、フリークーリング機能との組み合わせで年間電力消費を30~50%削減できるケースもあり、脱炭素投資の切り札として位置づけられています。
- 都市部の再開発・スマートビル化
高層ビルや商業施設では、従来の大型チラーでは屋上スペースや重量制限がネックとなっていました。モジュラーチラーは1モジュールあたりの重量が軽く(約2~3トン程度)、既存ビルへの後付け設置が容易です。また、ビルオートメーションシステム(BAS)との連携がしやすく、スマートビル化の流れに完全にマッチしています。
タイプ別市場動向
空冷式モジュラーチラー(シェア約62%、2024年現在)
設置が簡単で初期コストが低いため、中小規模の商業施設や工場で圧倒的なシェアを誇っています。特に水資源が乏しい地域(中東、インド北部、オーストラリアなど)で需要が急増しています。
近年のトレンドは「超低騒音化」と「高外気温対応」です。例えば、50℃の猛暑でも安定稼働するモデル(Daikin、Trane、Carrierなどが投入)が続々と登場しており、中東市場での受注が急増しています。
水冷式モジュラーチラー(成長率が空冷式を上回る)
エネルギー効率が圧倒的に高く、大規模施設やデータセンターで採用が拡大しています。特に注目すべきは「磁気浮上式チラー」のモジュラー化です。
磁気軸受を採用した遠心式コンプレッサーはオイルフリー運転が可能で、部分負荷時のCOP(成績係数)が7.0~9.0に達する製品も登場しています(Johnson Controls York、Multistackなど)。これらは従来のスクリュー式チラーを大きく上回る効率を示しており、2030年までに水冷式モジュラーチラーの主流になると予測されています。
用途別市場構成(2024年推定)
- 産業用:42%(化学プラント、食品工場、医薬品製造など)
- 商業用:38%(オフィスビル、ホテル、ショッピングモール、データセンター)
- 住宅用:20%(高級マンション、戸建て集合住宅のセントラル空調)
特に注目すべきは住宅用セグメントの急成長です。欧米では「ダクトレスVRF+モジュラーチラー」の組み合わせが、高級レジデンスの標準仕様になりつつあります。日本でも、2024年に施行された「省エネ基準適合義務化」を背景に、分譲マンションでの採用が急増しています。
地域別市場動向
アジア太平洋地域(2018年シェア39.79%、現在も首位)
中国では「新基建(ニュインフラ)」政策により、5G基地局・データセンター向けにモジュラーチラーの需要が爆発しています。特に国産メーカー(Gree、Midea、Haier、Yantai Moonなど)が価格競争力を武器にシェアを急速に拡大しており、2024年上半期だけでも前年比38%増という驚異的な伸びを示しています。
インドでは、2024年の猛暑(最高気温51.2℃)を受けて、空冷式モジュラーチラーの緊急導入が相次ぎました。政府がデータセンター投資に5兆ルピー(約9兆円)規模の優遇措置を打ち出したことも追い風となっています。
北米市場
データセンターと病院向けが主力。特にテキサス州、バージニア州、アリゾナ州での新設ラッシュが続いており、2024~2027年にかけて年平均8.3%成長が見込まれています。
欧州市場
F-Gas規制の段階的削減スケジュール(2030年までにGWP150以下への移行が義務付け)により、低GWP対応モジュラーチラーが爆売れしています。特に北欧諸国では、寒冷地仕様+ヒートポンプ機能付きモジュラーチラーが、暖房と冷房の両方をカバーする「オールインワンシステム」として急速に普及しています。
今後の技術トレンド(2025~2032年)
- AI最適運転制御の標準搭載
リアルタイムの負荷予測と気象データを組み合わせ、最適なモジュール台数制御を行うAIが全メーカーで標準化されつつあります。これにより、さらに10~15%の省エネ効果が期待できます。 - アンモニア(R717)モジュラーチラーの実用化
究極の自然冷媒として、欧州を中心に産業用で採用が始まっています。2027年頃には200~500RTクラスのモジュラー製品が市場投入される見込みです。 - 熱回収型モジュラーチラーの普及
冷却時に発生する排熱を給湯や暖房に再利用するタイプが、特にホテル・病院で急速に伸びています。一次エネルギー削減率は40%超に達する事例も報告されています。
結論
モジュラーチラー市場は、単なる「空調機器」の領域を超え、脱炭素社会の実現を支える重要なインフラへと進化しています。2025年以降は、AI・IoT・自然冷媒・熱回収といった先端技術が融合し、さらに高い付加価値を提供する製品が続々と登場するでしょう。
特に日本企業にとっては、中国メーカーの猛追をかわしつつ、高付加価値分野(磁気浮上式、低GWP対応、熱回収型)で差別化を図ることが生き残りの鍵となります。
2032年の91億2,000万米ドル市場を前に、今まさにモジュラーチラーは「第二の成長フェーズ」に入ったと言えるでしょう。

