不飽和ポリエステル樹脂市場の価格動向と成長要因
不飽和ポリエステル樹脂市場の概要
Unsaturated Polyester Resin Market は、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)をはじめとする複合材料の基材として広く利用されており、建設、自動車、風力発電、船舶など多様な産業を下支えする重要な市場です。世界の不飽和ポリエステル樹脂(UPR)市場規模は2019年に115億7,960万米ドルに達し、2020~2027年の予測期間に年平均成長率(CAGR)5.9%で拡大し、2027年には169億6,570万米ドルに到達すると見込まれています。特にアジア太平洋地域は2019年に世界市場の57.05%という圧倒的なシェアを占めており、今後も成長の中心的な地域であり続けると予想されます。
不飽和ポリエステル樹脂とは何か
不飽和ポリエステル樹脂は、グリコールと不飽和ジカルボン酸(例:無水マレイン酸、フタル酸など)から合成される熱硬化性樹脂です。樹脂分子中に存在する二重結合(不飽和結合)を、スチレンなどの反応性希釈剤とともに架橋反応させることで、三次元網目構造を形成し、硬化した強固な材料となります。
主な特徴として以下が挙げられます。
- 成形性に優れ、ハンドレイアップ、スプレーアップ、SMC/BMC、フィラメントワインディング、RTMなど多様な成形プロセスに対応
- ガラス繊維などの補強材と組み合わせることで高い機械的強度と耐衝撃性を発揮
- 耐薬品性、耐水性、耐候性に優れたグレードを設計可能
- 熱硬化性で寸法安定性が高く、クリープ変形しにくい
- エポキシ樹脂など他の熱硬化性樹脂と比較してコスト競争力が高い
これらの特性により、不飽和ポリエステル樹脂は「汎用かつコスト効率に優れた複合材料用マトリックス」として、幅広い用途で採用されています。
市場規模と成長見通し
2019年の世界市場規模は約115.8億米ドルであり、2027年までに約169.7億米ドルへと拡大する見通しが示されています。年平均成長率5.9%という数字は、素材市場としては堅調かつ持続的な成長を表しており、以下の構造的な要因が背景にあります。
- 新興国を中心としたインフラ・建設投資の継続的な拡大
- 車両軽量化ニーズの高まりによる樹脂・複合材料への置換
- 風力発電設備の新設・リプレース需要
- 腐食環境における金属代替としてのFRP製パイプ・タンクの採用拡大
- コストパフォーマンスに優れた汎用樹脂としての優位性
特にアジア太平洋地域では、都市化やインフラ整備が急速に進み、建設・輸送・エネルギー分野でのFRP需要が大きく押し上げ要因となっています。市場全体としては、量的拡大に加え、「高性能化」「低環境負荷化」など付加価値の高いグレードへのシフトも進んでおり、単価面からも成長が期待されています。
タイプ別分析:Orthophthalic、Isophthalic、DCPD
不飽和ポリエステル樹脂は、用いる酸やグリコールの組み合わせにより多様なグレードが存在しますが、市場分析上は主に以下の3タイプに分類されます。
- Orthophthalic(オルトフタル酸系)
オルトフタル酸を主原料とする最も一般的なタイプで、コストパフォーマンスに優れた汎用品です。
- 特徴:適度な機械特性、耐薬品性、加工性をバランス良く備える
- 用途:一般建築部材、浴槽・衛生機器、ボート内装、車体外装、各種FRP成形品
- 市場面:ボリュームゾーンを形成しており、全体市場を牽引する最大セグメントとなるケースが多い
- Isophthalic(イソフタル酸系)
イソフタル酸を用いた樹脂で、オルト系に比べて耐薬品性や耐熱性が優れています。
- 特徴:高い耐食性、耐水性、機械特性、耐候性
- 用途:化学プラント用タンク・配管、船舶外板、海洋構造物、防食ライニング、高耐候性建材
- 市場面:よりハイエンドな用途向けであり、単価が高く、収益性の高いセグメント
- DCPD(ジシクロペンタジエン系)
DCPDを利用した低粘度・低収縮型のUPRで、加工性と外観性に優れます。
- 特徴:低スチレン放散、低収縮、高い寸法精度、優れた表面平滑性
- 用途:電気・電子部品、自動車外装、家電筐体、SMC/BMC成形品
- 市場面:環境規制の強化や外観品質要求の高まりを背景に、成長余地が大きい分野とみなされています
これら3タイプは、用途や要求性能に応じて使い分けられており、メーカー各社は樹脂設計や配合技術を通じて、より高機能なグレードの開発を進めています。
用途別分析:主要エンドユース産業
不飽和ポリエステル樹脂市場は、用途別に以下のセグメントで構成されています。
- 建築・建設(Building & Construction)
建築・建設分野は、UPR市場における最大級の需要セグメントです。
- FRP製パネル、屋根材、波板、グレーチング、バスユニット、カウンタートップなど
- 軽量で腐食しにくく、加工自由度が高いことから、金属・セラミックス代替として採用拡大
- 都市化の進展やインフラ更新需要に伴う中長期的な成長が期待される
- 船舶・マリン(Marine)
- 小型ボート、ヨット、レジャー用水上バイク、船舶内装・外板部材
- 海水環境に対する耐食性と比強度の高さが求められる領域であり、UPR-FRPが標準的素材として定着
- 高性能なイソフタル酸系や改良グレードの需要も根強い
- パイプ・タンク(Pipes & Tanks)
- 化学薬品貯蔵タンク、下水道・工業用配管、煙道ライナーなど
- 腐食性流体や高湿度環境下でも長期耐久性を発揮することから、金属からFRPへの置換が進行
- インフラ老朽化対策、ライニング・更生需要が市場成長のドライバーに
- 電気・電子(Electrical & Electronics)
- 電気絶縁性と寸法安定性を活かした電気絶縁部品、配電盤、スイッチギア、電子機器筐体など
- DCPD系や難燃グレードのUPRが多用され、安全性・信頼性向上に寄与
- 陸上輸送(Land Transportation)
- 自動車・トラック・バスの外装パネル、バンボディ、ルーフ、内装部品
- 鉄道車両、農業機械、建機カバーなど、軽量化と耐食性が重要な部位に採用
- CO₂排出削減の観点から軽量素材への置換が進み、中長期的な需要拡大が期待される
- 風力エネルギー(Wind Energy)
- 風力発電ブレード、ナセルカバー、ハブなど
- 大型化・長尺化が進む風車ブレードにおいて、UPRはコスト面・成形性で優位性を発揮
- 再生可能エネルギー投資の拡大とともに、最も高成長が期待される用途の一つ
- その他(Others)
- 家電筐体、スポーツ用品、医療機器、レジャー・インテリア製品など
- 多様なニッチ用途で採用されており、高付加価値市場として存在感を増しつつある
地域別動向:アジア太平洋が世界市場をリード
2019年において、アジア太平洋地域は世界不飽和ポリエステル樹脂市場の57.05%という圧倒的なシェアを占めました。この背景には、以下の要因があります。
- 中国、インド、東南アジア諸国における急速な都市化とインフラ投資
- 住宅建設・商業施設・交通インフラの旺盛な需要
- 自動車・電機・風力発電といったエンドユース産業の集積
- コスト競争力の高い樹脂メーカー・コンパウンドメーカーの存在
一方で、北米・欧州市場は成熟度が高いものの、以下の観点から安定的な需要が見込まれます。
- 既存インフラの更新・メンテナンス需要(パイプ・タンク、建設リノベーションなど)
- 風力発電設備のリプレースサイクル入り
- 高機能・高付加価値グレードへのシフト(耐薬品・難燃・低スチレンタイプなど)
中南米、中東・アフリカ地域では、石油・ガス、化学、インフラ・建設などのプロジェクトが徐々に増加しており、今後の潜在的な成長余地が大きいとみなされています。
COVID-19の影響分析
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年前後に不飽和ポリエステル樹脂市場にも大きな影響を与えました。
短期的なネガティブ影響
- ロックダウンや移動制限による建設プロジェクトの一時停止・遅延
- 自動車・輸送機器生産の落ち込みに伴う樹脂需要減少
- 船舶・レジャー分野での需要停滞
- サプライチェーン混乱による原材料調達の遅延、価格の変動
中長期的な回復と構造変化
- 各国政府による景気刺激策・公共投資拡大により、インフラ・建設需要が徐々に回復
- 再生可能エネルギーや環境インフラへの投資重視により、風力発電・排水処理設備向けFRP需要が拡大
- 供給網の再構築や在庫戦略の見直しにより、サプライチェーンのレジリエンスが強化
- 医療・衛生関連設備や機器筐体など、一部ニッチ用途ではむしろ需要増となるケースも発生
結果として、市場は2020年に一時的なマイナスインパクトを受けつつも、中期的には予測CAGR 5.9%前後の成長トレンドへ復帰するシナリオが描かれています。
成長ドライバーと抑制要因
成長ドライバー
- インフラ投資と都市化の進展
新興国を中心に、道路・橋梁・上下水道・エネルギーインフラなどの建設・更新が続いており、FRP製パイプ・タンク、建設部材に用いられるUPR需要を押し上げています。 - 軽量化ニーズの高まり
自動車・輸送機器・風力発電などにおいて、軽量化による省エネ・CO₂削減が求められており、金属から樹脂・複合材料へのマテリアルシフトが進行しています。 - 腐食防止・メンテナンスコスト削減への要求
腐食環境で使用される金属部材の代替として、耐食性に優れたFRPへの置換が進み、長寿命化・トータルコスト削減に貢献しています。 - コスト競争力と汎用性
エポキシやビニルエステルなど他の熱硬化性樹脂と比較し、UPRはコスト面で優位であり、大量生産向きであることから、多くの分野で第一選択肢となっています。
抑制要因・課題
- 環境・健康規制(特にスチレン放散)
不飽和ポリエステル樹脂の硬化には一般的にスチレンが用いられますが、揮発性有機化合物(VOC)としての規制や、作業環境への影響が懸念されています。これにより、低スチレン・ノンスチレングレードや、クローズドモールド成形への移行が求められています。 - 他材料との競合
- 高機能用途ではエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂
- 汎用用途では熱可塑性樹脂(PP、PE、PETなど)や金属材料
との競合があり、用途別に適材適所の選択が進んでいます。 - 原材料価格の変動
原油価格の変動は、無水マレイン酸、フタル酸、スチレンなど主要原料の価格に影響を与え、メーカーの収益性を左右します。 - リサイクル・サステナビリティへの対応
熱硬化性樹脂であるUPRは、熱可塑性樹脂に比べてリサイクルが難しく、廃棄時の環境負荷が課題とされています。ケミカルリサイクル技術の開発や、バイオ由来原料の活用などが進められつつありますが、商業化には時間と投資を要します。
技術・市場トレンド
- 低スチレン・低VOCグレードの開発
作業環境および環境規制対応として、スチレン含有量を低減した樹脂や、代替モノマーを用いた樹脂の開発が進展しています。 - 高機能化・差別化
難燃、低収縮、高耐熱、高耐薬品といった高機能グレードの需要が増加しており、メーカーは処方技術やナノフィラー活用などで性能向上を図っています。 - バイオベース樹脂への取り組み
再生可能原料の導入や、再生PET由来ポリオールの利用など、カーボンフットプリント低減に向けた取り組みが始まっています。 - 成形プロセスの高度化・自動化
RTM、インフュージョン、SMC/BMCなど自動化しやすい成形法の採用が進み、生産性向上と品質安定が図られています。
今後の展望と戦略的インプリケーション
2020~2027年の予測期間において、不飽和ポリエステル樹脂市場は年平均5.9%のペースで拡大し、2027年には約169.7億米ドル規模に達すると見込まれています。特に、アジア太平洋地域を中心としたインフラ・建設投資、風力発電設備の増設、輸送機器の軽量化ニーズが、市場全体の拡大を牽引すると考えられます。
メーカー・サプライヤーにとっては、
- 高機能グレード(耐食、難燃、低VOCなど)へのポートフォリオシフト
- バイオベース原料やリサイクル技術の導入によるサステナビリティ強化
- 風力エネルギーやインフラ更新など高成長セグメントへの重点投資
- アジア太平洋や中東・アフリカなど成長市場での生産・販売拠点拡充
といった戦略が重要になります。
ユーザー企業・エンドユーザーにとっては、
- 金属や他樹脂からUPR-FRPへの置換による軽量化・耐食性向上
- ライフサイクルコスト(LCC)や環境負荷を踏まえた材料選定
- 新しい成形プロセス・設計手法との組み合わせによる製品競争力の強化
が競争優位の鍵となります。
総じて、不飽和ポリエステル樹脂市場は、環境規制やサステナビリティへの要求という課題を抱えつつも、インフラ、エネルギー、輸送といった社会基盤を支える素材として、今後も中長期的に安定成長が期待される分野であると言えます。
https://www.fortunebusinessinsights.com/unsaturated-polyester-resin-upr-market-104760

