DNAシーケンシング市場の研究用途拡大と成長軌道
DNAシーケンシング市場の現状と将来展望(2026~2034年)
グローバルなDNA Sequencing Marketは、ゲノム研究と精密医療(プレシジョン・メディシン)の進展を背景に、今後10年以上にわたり持続的な拡大が見込まれている。2024年の世界市場規模は123.1億米ドル(12.31 billion USD)と評価されており、2026年には133.6億米ドル、2034年には272.5億米ドルへと成長し、2026年から2034年にかけて年平均成長率(CAGR)9.32%という力強い伸びが予測されている。また、2025年には北米が市場シェアの46.63%を占めるなど、地域別の偏在も顕著である。以下では、製品・サービス別、技術別、用途別、エンドユーザー別、地域別の観点から、DNAシーケンシング市場の構造と成長要因を詳細に解説する。
- DNAシーケンシング市場の概要
DNAシーケンシングは、生物の遺伝情報を担うDNAの塩基配列を高速かつ高精度で読み取る技術であり、ライフサイエンス・医療分野の基盤技術となっている。がんなどの難治性疾患の診断・治療方針決定、創薬ターゲットの探索、新興感染症のゲノム解析、さらにはマイクロバイオーム解析など、その応用範囲は年々拡大している。
市場成長を支える主な背景要因
- シーケンスコストの継続的な低下
- 次世代/第三世代シーケンサーの高スループット化
- 個別化医療・コンパニオン診断へのニーズ拡大
- ゲノム医療・バイオバンク構築を支援する各国政府の政策
- 製薬・バイオテクノロジー企業によるR&D投資の増加
これらの要因が相まって、2026~2034年の予測期間を通じて、同市場は高いCAGRを維持すると見込まれている。
- 製品・サービス別の市場構造
DNAシーケンシング市場は、「製品(機器・消耗品)」と「ソフトウェア&サービス」という二つの大きなカテゴリに分類される。
2-1. 製品:機器(Equipment)と消耗品(Consumables)
機器(Equipment)
- ハイスループット次世代シーケンサー
- ベンチトップ型・小型シーケンサー
- サンプル調製用自動化装置
- ライブラリ調製・QC(品質管理)装置
機器分野は初期投資額が大きいものの、研究機関や大規模診断センター、製薬企業において導入が進んでおり、長期的なリプレイス需要も期待される。特に、第三世代シーケンス技術(ロングリードシーケンスなど)の浸透に伴い、新たな装置への更新需要が中長期的な成長ドライバーとなる。
消耗品(Consumables)
- シーケンス用試薬キット
- ライブラリ調製キット
- プレート、カラム、チップなどのプラスチック消耗品
消耗品は、シーケンスが行われるたびに必要となるため、機器よりも安定的で再現性の高い売上を生み出す点が特徴である。研究用途のみならず、臨床検査としてのシーケンス需要が増えるほど、消耗品の継続的な使用量が増加し、市場規模拡大を下支えする。
2-2. ソフトウェア&サービス(Software & Services)
DNAシーケンシングでは、生成されるデータ量が膨大であるため、解析パイプラインの構築や結果の可視化・解釈に高度なソフトウェアおよびサービスが不可欠となる。
- バイオインフォマティクス解析ソフトウェア
- クラウドベースの解析プラットフォーム
- データストレージおよびセキュリティソリューション
- 受託シーケンスサービス(CRO、専門ラボ)
- データ解釈・臨床レポート作成サービス
特に、臨床現場への導入が進むにつれ、医師や検査技師が直感的に利用できるGUIベースの解析ツールや、法規制・コンプライアンス(患者情報保護など)に対応したクラウドサービスの価値が高まっている。この領域はサブスクリプションモデルを取り入れやすく、ストック型ビジネスとして市場成長を加速する要因となる。
- 技術別セグメンテーション
DNAシーケンシング市場は、主に以下の3つの技術カテゴリに区分される。
- サンガーシーケンシング(Sanger Sequencing)
- 次世代シーケンシング(Next-generation Sequencing, NGS)
- 第三世代シーケンシング(Third-generation Sequencing)
3-1. サンガーシーケンシング
サンガー法は「第一世代」とも呼ばれる古典的なシーケンス技術であり、現在でも以下のようなニーズが根強い。
- 小規模なターゲット領域の検証
- 変異確認のゴールドスタンダード
- 規制当局に承認された一部の診断用途
市場全体の売上構成比としては縮小傾向にあるものの、信頼性の高さと装置コストの低さから、研究室レベルでは今後もしばらく利用が継続すると考えられる。
3-2. 次世代シーケンシング(NGS)
NGSは、現在のDNAシーケンシング市場の主力技術であり、高スループット・低コストを武器に急速に普及した。
- 数百~数千のサンプルを同時解析可能
- がんパネル、エクソーム解析、トランスクリプトーム解析など、多彩なアプリケーションに対応
- 臨床検査としてのコンパニオン診断、遺伝性疾患診断への応用が拡大
NGSプラットフォームの技術進歩により、ランニングコストの低下と解析精度の向上が同時に進んでおり、2026~2034年の期間においても、DNAシーケンシング市場の中心的な成長エンジンであり続ける見込みである。
3-3. 第三世代シーケンシング
第三世代シーケンシングは、長鎖DNAをリアルタイムで読み取るロングリード技術を特徴とする。
- 構造変異(SV)の検出や、リピート配列の解析に強み
- エピゲノム情報(メチル化など)を同時取得できる技術も登場
- 全ゲノムをより完全にアセンブル可能で、希少疾患研究などに有用
まだコスト面やエラー率の改善余地は残るものの、技術革新に伴い、今後の高成長が期待されるセグメントであり、NGSと補完し合う形で市場を拡大すると考えられる。
- タイプ別セグメンテーション
DNAシーケンシング市場は、用途や解析戦略に応じて、以下のようなタイプに分類される。
- Whole Genome / Exome Sequencing(全ゲノム/エクソームシーケンス)
- エピゲノミクス(Epigenomics)
- ターゲットシーケンス(Targeted Sequencing)
- メタゲノミクス(Metagenomics)
- その他
4-1. Whole Genome / Exome Sequencing
全ゲノムシーケンス(WGS)とエクソームシーケンス(WES)は、疾患関連変異の包括的な探索に用いられる。
- WGS:コーディング領域・非コーディング領域を含む全DNAを解析
- WES:タンパク質コード領域(エクソン)にフォーカスし、コストを抑制
希少疾患解析やがんゲノムプロファイリング、バイオバンクプロジェクトなどで需要が増加しており、大量のサンプルを対象とする国レベルのプロジェクトにも広く採用されている。
4-2. エピゲノミクス(Epigenomics)
DNAメチル化やヒストン修飾など、遺伝子発現制御に関わるエピゲノム情報を取得するシーケンス手法である。
- がんの発症・進展メカニズムの解明
- 老化研究や発生生物学への応用
- バイオマーカーとしての実用化に向けた研究開発
今後、エピゲノム情報を活用した診断・予後予測や薬剤応答性予測などの臨床応用が進めば、関連市場はさらに拡大することが予想される。
4-3. ターゲットシーケンス(Targeted Sequencing)
特定の遺伝子やパネルに限定して深く解析するターゲットシーケンスは、コストパフォーマンスと実用性の高さから、商業的に非常に重要なセグメントである。
- がん遺伝子パネル検査
- 遺伝性疾患パネル
- 微生物同定や耐性遺伝子パネル
臨床現場での採用が進んでおり、迅速な結果返却が求められる診断領域では、今後も高い需要が続くと見込まれる。
4-4. メタゲノミクス(Metagenomics)およびその他
メタゲノミクスは、培養を行わずに環境サンプル中の多様な微生物群集を解析する手法であり、
- 腸内マイクロバイオーム解析
- 環境モニタリング
- 食品・農業分野での応用
などに利用されている。マイクロバイオームと疾患との関連が次々と報告される中、メタゲノミクスの商業的価値は今後さらに高まると考えられる。
- アプリケーション別:創薬・診断・個別化医療
DNAシーケンシング市場のアプリケーションは、主に以下のカテゴリに区分される。
- 創薬・開発(Drug Discovery & Development)
- 診断(Diagnostics)
- 個別化医療(Personalized Medicine)
- その他(基礎研究、法医学、農業ゲノミクスなど)
5-1. 創薬・開発
製薬企業やバイオテクノロジー企業において、シーケンシング技術は以下のような用途で広く活用されている。
- 疾患関連遺伝子や新規ターゲットの探索
- バイオマーカーの同定
- 治験における患者層別化(ストラティフィケーション)
ゲノム情報に基づく創薬は、開発成功率の向上と開発期間の短縮に寄与することから、今後もR&D投資とともに需要が拡大していくことが見込まれる。
5-2. 診断(Diagnostics)
がん、遺伝性疾患、感染症などの診断におけるシーケンシング技術の活用は、すでに実用段階にある。
- がん遺伝子パネル検査による治療方針決定
- 遺伝性疾患の原因変異の特定
- 病原体のゲノム解析による感染源・伝播経路の特定
COVID-19パンデミックを背景に、病原体ゲノム解析の重要性が広く認識され、今後も公衆衛生分野でのシーケンス需要は継続的に存在すると考えられる。
5-3. 個別化医療(Personalized Medicine)
個々人のゲノム情報に基づいて、最適な治療法や予防法を選択する個別化医療は、DNAシーケンシング市場の中核的な成長ドライバーである。
- コンパニオン診断薬と分子標的薬の組み合わせ
- 薬物応答性・副作用リスクの事前評価
- がん免疫療法におけるネオアンチゲン同定
ヘルスケアシステム全体の効率化や医療費削減に寄与する可能性も高く、各国の医療政策とも連動しながら、市場規模の拡大を牽引していくと見込まれる。
- エンドユーザー別分析
DNAシーケンシング市場のエンドユーザーは、主に以下の4カテゴリに分類される。
- バイオテクノロジー&製薬企業(Biotechnology & Pharmaceutical Companies)
- 診断センター(Diagnostic Centers)
- 学術・研究機関(Academic & Research Institutes)
- その他(病院、政府・公的機関など)
6-1. バイオテクノロジー&製薬企業
創薬研究・バイオマーカー探索・コンパニオン診断の開発など、多岐にわたりシーケンシングを活用しており、高単価な装置および大規模プロジェクトを支える主要顧客セグメントである。R&D投資が拡大する中、今後も安定した需要が見込まれる。
6-2. 診断センター
民間ラボ、検査会社、専門クリニックなどが含まれ、臨床検査としてのシーケンス需要の増加に伴い、最も成長率の高いエンドユーザーの一つと考えられる。
- がん遺伝子パネル検査
- NIPT(母体血を用いた出生前遺伝学的検査)
- 感染症・病原体ゲノム解析
これらのサービスが一般診療に取り込まれていくほど、診断センター向けの機器・消耗品・解析サービス需要が増大する。
6-3. 学術・研究機関
大学や国立研究所などのアカデミアは、基礎研究や大規模コホート研究を通じてシーケンス需要を支えてきた伝統的な主要顧客である。ゲノムビッグデータの蓄積により、新たな創薬ターゲットや診断技術のシーズが生まれ、市場全体のイノベーションエンジンとして機能している。
- 地域別動向:北米の優位性とその他地域の成長ポテンシャル
DNAシーケンシング市場は、地域別にみると北米、欧州、アジア太平洋、ラテンアメリカ、中東・アフリカなどに区分される。
7-1. 北米(North America)
2025年時点で市場シェアの46.63%を占めるとされる北米は、DNAシーケンシング市場をリードする最大地域である。
- 主要シーケンス機器メーカーおよびバイオインフォマティクス企業の集中
- 政府研究資金・民間R&D投資の規模の大きさ
- ゲノム医療・プレシジョンメディシンを推進する公的プロジェクトの存在
これらの要因から、北米は今後も高い市場シェアを維持しつつ、技術革新とビジネスモデルの発信地としての役割を担い続けると考えられる。
7-2. 欧州(Europe)
欧州は、基礎研究・臨床研究双方のレベルが高く、各国でゲノム医療プログラムが進行している。
- 公的医療制度と連動したゲノムコホート研究
- データ保護規制(GDPR)を踏まえたセキュアなデータ運用への需要
- 高品質な臨床検査ラボネットワーク
医療制度や規制の違いを踏まえた市場戦略が必要だが、中長期的には安定成長が期待される地域である。
7-3. アジア太平洋(Asia Pacific)
アジア太平洋地域は、人口規模の大きさと医療需要の拡大を背景に、高い成長ポテンシャルを有している。
- 中国、インド、日本、韓国などにおけるゲノム医療・ビッグデータプロジェクト
- 民間検査サービスの急拡大
- 中間層の増加に伴うヘルスチェック・遺伝子検査への関心の高まり
コスト競争力のあるサービスやローカライズされたソフトウェア、規制対応が成功の鍵となる。
- 2026~2034年の市場機会と課題
8-1. 成長機会(Opportunities)
- AIとの融合:変異解釈や疾患リスク予測にAI・機械学習を組み合わせることで、解析の自動化・高度化が進む。
- シングルセルシーケンス:細胞集団の不均一性を解明するための単一細胞解析需要が増加。
- ロングリード技術の進化:完全長トランスクリプトーム解析や構造変異の高精度解析による新たなアプリケーション創出。
- 在宅・分散型医療との連携:簡便なサンプル採取キットとクラウド解析を組み合わせたDTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査サービスの拡充。
8-2. 課題(Challenges)
- 初期投資コストの高さ:ハイエンドシーケンサー導入には多額の資本が必要であり、新興国や中小規模施設では導入のハードルとなる。
- データ解析人材の不足:バイオインフォマティシャンやデータサイエンティストの不足により、解析ボトルネックが生じやすい。
- 規制・倫理・プライバシー:ゲノム情報の取り扱いに関する法規制や倫理的課題(インフォームドコンセント、二次利用など)が複雑化している。
- 償還制度(保険適用)の問題:診断・医療目的でのシーケンス検査がどの程度保険償還されるかが、臨床市場拡大のカギとなる。
これらの課題に対して、技術革新だけでなく、ビジネスモデル・法制度・教育体制を含む包括的な取り組みが求められる。
- まとめ
DNAシーケンシング市場は、2024年に123.1億米ドル規模に達し、2026年から2034年にかけて年平均成長率9.32%で拡大しながら、2034年には272.5億米ドルに至ると予測される。北米が依然として最大市場である一方、欧州やアジア太平洋地域でもゲノム医療の普及に伴い、高い成長が期待される。
製品面では、機器・消耗品に加え、バイオインフォマティクスソフトウェアやクラウドサービスなどの「ソフトウェア&サービス」分野が重要性を増している。技術面では、NGSが市場の中心であり続けると同時に、第三世代シーケンシングやシングルセル解析など新技術が新たな付加価値を生み出している。
創薬、診断、個別化医療、公衆衛生、マイクロバイオーム研究など、多様なアプリケーションが拡大するなかで、DNAシーケンシングは今後もライフサイエンス・医療産業の中核技術として、持続的な成長を続けるだろう。
出典:https://www.fortunebusinessinsights.com/industry-reports/dna-sequencing-market-101527

